midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「未来医師」を読む。

未来医師 (創元SF文庫)

未来医師 (創元SF文庫)

ディック作品で気軽に読めるようなものないかなーと思って借りた一冊。ディック本人が売文のために書いた駄作と言っているようだけど、結構面白かった。少なくとも名作と誉れ高い「ヴァリス」より遥かに読み易いし楽しいと思うんだけどな。今よりも少し未来に生きる医者であるパーソンズが、さらに未来の25世紀にタイムスリップ(召喚され)し、未来の歴史を改変する物語。

色々言われているように、タイムスリップした先の未来社会の紹介に徹した前半と、タイムスリップ歴史改変サスペンスものである後半でかなり毛色が変わっているのが評価を落としているらしい。個人的には前半の方がお気に入り。25世紀ならこんな社会になってそう、というリアルさがあってワクワクしながら読んでいた。人種の交配が進んだことで白人的な形質がなくなり、全員が混成言語を話す。典型的な管理社会で、人類はいくつかの部族にわかれ、一人が死んだら冷凍していた受精卵を一人孵すという人口管理をしている。主人公の能力でもある医療行為は全面的に禁止され過去の技術とされており(錬金術と間違えられていた)、多くの人間は成人するころには死んでしまうが、死生観や宗教観もかなり変わっており、皆死への恐れがなくなっている。宇宙進出も進んでおり、火星を囚人の収容所として利用している。…みたいな社会。んで、後半はなぜ主人公が未来に呼び出されたかが明らかになり、医療能力を用いてある未来人の男の命を救おうとするのだが、実はその男は自分が殺していたというパラドックスがさらに明らかになり、という風に何回かどんでんかえしがあって楽しめる。コンパクトに構成されており、読み易いのでディック初心者である自分にも満足することができた。お勧め。