midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「パノラマ島綺譚」を読む。

パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)

パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)

あまりにも似合いすぎるというか、江戸川乱歩の作品をマンガにするならこの人しかいないだろという感じ丸尾末広が描いているのが面白くて読んでみた。原作は読んだことないけど、かなりフェティッシュな内容で楽しめた。貧乏小説家と容姿が瓜二つの友人の金持ち実業家が早世したことで、貧乏小説家が金を使って自分の理想の「地上の楽園」を造るというお話。最初は「太陽がいっぱい」かと思ったけど、小説家は現世で成り上がりたいのではなく、あくまで自分が理想とする世界を現実に創造してみたいという思いが強いため、この世への執着が希薄なのが面白かった。

丸尾末広の描写はかなりカラー絵も含めてめちゃくちゃ豪華で、ストーリーよりも何よりも主役は楽園を描くことにあるといっても過言ではないくらいだ。本書の後半部分はほとんど作り上げた楽園を小説家が嫁(つまりすり替わった元の実業家の嫁)を案内する場面が続くのだが、めくるめく万華鏡のような浮世離れした庭園、景色がこれでもかと押し寄せてきて、1ページ1ページがそのまま絵画作品を体験するような感覚に陥る。洋の東西を問わず、酒池肉林、裸の男女が一日中乱交しているような怒涛の世界だ。最終的に明智小五郎に偽者であることを見破られた小説家が、最後に自分を花火のように爆破し、血の雨を降らせて幕を閉じるというラストもすごく良かった。

印象に残ったやりとりが、「機械だけで出来た異怪物の森」。なにやら工場のようなものが連なって煙を吐き規則的な運動と轟音を立てているのだが、嫁の一言「なにを作るための機械でしょう」に対し「なにも生産しない夢の機械だ」というやりとり。まさに無駄の極地。ただただ美しさだけを求めたフェティッシュな世界の創造にふさわしい言葉だと思う。