■

「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」を読む。

ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事 (Mag comics)

「黄色い本」に続き、高野文子作品2冊。デパートが大好きな女の子がひょんなことから仕事を辞め、デパートに勤めることが出来るようになるも、とある陰謀に巻き込まれていき…。というお話。面白かった。

描かれたのは98年とのことだが、現代の日本には見えないし、かといって特定の国の特定の時代や風俗にとらわれた描写が出てくるわけでもない、独特な軽やかな世界を作り出していてやはり面白い。似ている作品が挙げづらいというか、結局「黄色い本」の読後感は近いんだけども、本作は少ないながらアクションもあるしロマンスもある。単行本一冊でエピソード一つ無駄がないほとんど完璧に練られた構成をしており、短編映画を観たような読後感に浸ることができる。

絵単体で見ても、カメラアングルが主人公のラッキー目線になったり、足元から舐めるようなアングルや魚眼レンズのようになったりと目まぐるしく切り替わり、「見る」楽しさが味わえる。線はほとんどフリーハンドで影の書き込みや過剰な集中線は使わず、すごく軽い雰囲気を出している。かと言って動きがないわけではなく、コマ割りやキャラの視線のやり方ひとつできちんとアクションを描いており、上品でかつ、こんなマンガ表現もあるんだなーと感心してしまう。敵キャラとキーアイテムである帽子を奪い合って高い部屋の窓からラッキーが下りるシーンとかは特に印象的。

本作を読んで人間観が変わるような衝撃的な体験は出来ないだろう。でも、抉るような重厚な人間ドラマとは無縁の、どこかおとぎ話のようなファンタジックな世界観に惹かれた。