midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「身近なレトリックの世界を探る」を読む。

100ページちょいと非常に短いながら、日本のCMのキャッチコピーの分析を通してタイトル通りレトリックの面白さについて考えることができる良書。本書に出てくるような普段意識せずとも伝わる表現が、ふと考えなおしてみると「なんで通じるんだろう」と不思議に思ってしまって面白かった。よくアスペルガー症候群の人を「言葉を額面通りにとらえる」と表現するけど、むしろこんな複雑なレトリックに支えられた人間のコミュニケーションが改めて異常なようにも感じた。皮肉や冷やかしなんて非常に高度なコミュニケーションだなあと。桃井かおりの「世の中、バカが多くて疲れません?」という非常に皮肉たっぷりのCMに対してクレームがつき「世の中、お利口が多くて疲れません?」と逆の意味の単語に差し替えたが、かえって皮肉なイメージが強まるという皮肉な結果になった、というエピソードが紹介されており笑った。

あと、ちょっと本筋とずれるけど面白いトリビアとして、ギリシア古典期の朗誦者「ラプソードス」について知ることができた。「歌を縫い合わせる者」という意味で、杖で拍子をとりながら朗誦するらしいんだが、「自作の詩を朗誦するよりも、むしろ既存の詩編の部分を選んだり、結びつけたりして、朗誦するのであった」とのころで、これってまんま現代のDJじゃん!と思った。

ちょっと難点を言えば、レトリックの定義や分類(ロゴス・エトス・パトスみたいな)など先人の研究者の業績も踏まえてきちんと説明する明晰さがあるのに、「日本人の感性」という曖昧な言葉をやたらと用いてステレオタイプな分析をしてしまうところが多々あるところ。「日本人にはおなじみ~」とか「日本人の好むレトリックは~」みたいなフレーズが文中にたくさん登場するが、「日本人は論理より情緒や共感を好み、明確な表現より婉曲な表現を好む」という自説に合うキャッチコピーばかり選択している感もなくもない。