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「1998年の宇多田ヒカル」を読む。

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

1998年は恐らく今後も破られることがないであろう、史上最もCDが売れた年だという。そんな1998年にデビューした宇多田ヒカルと、同期の歌姫である椎名林檎浜崎あゆみaikoについて当時「ロッキン・オン」などの音楽雑誌編集者であった著者の視点から語ることで当時の音楽業界の在り方を浮かびあがせる。4人のうち誰かしらに興味を持てる人なら楽しめるんじゃないかと思う。

自分史に照らし合わせると、当時はまだ小学生で、「歌の大辞典」とかのTV番組を見てから年に数回小遣いを握りしめてCDを購入するような子供だったと思う。そんな中、やはり宇多田ヒカルの出現は衝撃的だったように思う。今聴くとそこまで違和感なく聴けるが、日本的な要素が薄く、「本格派」な感じが印象に残っている。当時好きだったアーティストで今は特に興味がない人もいるが、人間活動中の彼女は今も気になる存在であり続けている。著者は彼女を、活動歴の割に極度にライブが少ない、いわゆるスタジオミュージシャンであると位置づけており、2016年現在のライブ主体となった音楽シーンの中で彼女の活動は果たしてこれまでと同様の形でうまくいくのだろうか、と案じている。そんな言葉の助けを借りるなら、彼女のそのスタジオや自室で作りこまれた密室的な世界感もある種の惹かれる理由だったのかな、とも思う。また、ワーナーを相手にしたプリンスのように、「音楽制作における全権」をレコード会社(東芝EMI)から勝ち取っていたというのも初耳で面白かった。いわゆる「ギョーカイの中の人」である著者の語るゲームのルールを変えていく存在としての宇多田ヒカルは面白く読めた。

あと、椎名林檎と仲良しだというのも初めて知って意外だった。一緒にEMIガールズとしてステージに立ったこともあるらしい。音楽制作における違いだけでなく、椎名林檎宇多田ヒカルの音楽業界への思いの違いもどちらが良い悪いというわけではなく、楽しめた。