midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「ニルヤの島」を読む。

図書館でふと目に留まって読んでみた。著者は若いということと見た目とペンネームにインパクトがあるので前から知ってはいたのだけど、読んだのは本作が初めて。ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。近未来、人生の全てを生体受像という技術でアーカイブすることが可能になり、同時に人間の死生観が変化し宗教の意味が喪失した中で、ミクロネシア諸島を舞台に新たに勃興したモデカイトという宗教とその周辺にまつわる人々の物語。エピソードが大きく四つの視点で書かれており、さらにそのエピソードごとの時系列がバラバラのため、読み易い構成ではない。けれど、終盤に向けて段々と登場人物たちの関係性が把握できるようになり、「ニルヤの島(死者の行く先)」へ向かう壮大なラストへ収斂していくのは面白い。そして何より、この読みづらい構成自体、「生体受像にアーカイブされた記憶を人間の脳内で再生するという形式の叙述」という本作の設定と一体化しており(登場人物の言葉を借りると、「一度読んだことのある本をあえてバラバラに読み直すようなもの」らしい。こういう体感的な言葉で設定をうまく読者が咀嚼できるように助けていると思う。)、よくできていると思う。流し読みしてるだけだと混乱するので、年表と登場人物たちの相関図を作りながら読むと整理できるかもしれない。また、本作の読みどころとも言える、非常に鮮やかで色彩あふれる東南アジア、ミクロネシアの文化や風土の描写がとても気持ち良い。この辺は確かに民俗学専攻の著者の強みが上手く出ているところなのかなーと思う。模倣遺伝子(ミーム)の概念も本作のキーワードになっていて、積荷信仰(カーゴ・カルト)というような説明で登場人物の口を借りて宗教を語るくだりとかも勉強になるし、それが物語を駆動する推進力としてきちんと機能しているというのも優秀。全体としてそこまで長くもない分量でまとまっているし、楽しめた。