midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「息もできない」を観る。

息もできない [DVD]

息もできない [DVD]

観る前から予感はしてたけど、傑作。今年のベスト候補かも。ジャン・リュック・ダルデンヌの「ある子供」のような、もしくはケン・ローチの「sweet sixteen」のような、貧困と暴力にまみれた社会の底辺で懸命に生きることを描く…に留まらず、ラストシーンでさらにその負の連鎖は続くのだというもう一次元上の表現まで踏み込んだ傑作。なんと初監督らしい。しかも、監督、製作、脚本、主演、編集をやったというとんでもない才能。

上記で書いた2作のように、とにかくリアルでドキュメンタリーちっくな映像。良い意味で洗練されていないし、映画的な装飾が薄い。音楽もほとんどない。殴る音、流れる血、むさぼり食う飯、汚い屋台ですする汁、すべてが本物のようで、まさしく「息もできない」ような臨場感だ。役者も、飛び切りの美男も美女も登場せず、皆そのあたりに生きてそうな生生しい存在感で、主演の二人もすごく良い。履き潰してすり切れたスニーカーとよれよれのポロシャツをズボンに無造作に放り込み、常に煙草を吹かすチンピラ男と、制服に身を包み、しゃれっ気のない髪を一つにまとめただけの疲れの滲み出る女子高生(ちょっと多部未華子似)。監督の解説が秀逸で、「彼らは惹かれあったのかもしれないが、それがお互いにどのような感情なのかわからなかったと思う。ちょうど一人で生きる狼がたまたま鉢合わせて、自分に似たやつがいるんだな、と認識した程度なんじゃないか」みたいなことを言っていて、まさしく観ていてそのように感じた。彼らは決して恋愛関係ではなく、友達のようでそうでもなく、似た者どおしでしかなかったように思える。決して涙など見せるはずのないお互いが、ふとした気持ちの緩みでその感情を共有できた漢江のシーンはまぎれもなく名シーン。

ヤン・イクチュン監督、他にも観てみたいなーと思ったのだがTSUTAYAにも無かった。今後も目が離せない監督がまた一人出来た。