midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「ジャンゴ」を観る。

D

タランティーノ最新作。西部劇にそれほど明るくないのだが、ジャンゴ(Django)という名前は「荒野の用心棒」をはじめとして、このジャンルを代表するような名前らしい。南北戦争の少し前、ジェイミー・フォックス演じる黒人奴隷がひょんなことから元歯科医で現賞金稼ぎのドイツ人シュルツに協力することを条件に拾われ、賞金稼ぎとしての技術を身に付けた後に離れ離れになった妻を助けるため、フランス流の貴族暮らしを引きずった農場主と対決する、というストーリー。構成としてみたら、タランティーノ節というか与太話が延々と続く感じやパルプフィクション的な時間軸のシャッフルもなくてすっきりした一本筋の話。3時間近くあるが全然長さを感じさせない面白さだった。

理知的で怒りを湛えたジェイミー・フォックスも、恭しい佇まいと裏腹に賞金首を容赦なく殺していくどこか狂気に満ちたクリストフ・ヴァルツも面白いのだが、一番は農場主を演じたレオナルド・ディカプリオだった。最高。黒人奴隷達を文字通り家畜として虐げたり痛めつける様をノリノリで演じており、強烈なインパクトを与える。所作の一つ一つが全てペテン臭いクソ野郎に見えるという稀有な仕事ぶりだ。これまた宮廷文化をご丁寧に引きずった未亡人の妹を溺愛し、屈強な黒人奴隷たちをローマの拳闘士に見立てて死ぬまで戦わせ、戦うことを臆した奴隷は犬に食わせるという鬼畜ぶり。自分が騙されてたと知ってからの一連の演技は見もの。

もちろん今の感覚で見てるから鬼畜で滑稽に見えるんだろうけど、実際に当時の南部の保守的な農場主たちはあんな生活様式・思考だったのかもしれない。そう考えると、150年くらいでアメリカも黒人が大統領になるくらいだし随分変わったなぁとも思わせる。

あと、スパイク・リーは本作を、「先祖に対する冒涜」だと見ずに批判してるそうだが、それこそ言葉刈りの一貫であるように思う。タランティーノは保守的な西部劇の世界に新しい風を送り込んだんじゃないかと思うし、(そんなに詳しくないけど、ジョン・ウェイン始め西部劇に携わってきた人たちは「強きアメリカ」を志向して保守的・差別的な印象がある)、物語を作ることで歴史を冒涜するというのなら何も創造することができなくなってしまう。あくまでも、「誰に強制することのない俺の意見」としているみたいだが、賛同できない。ていうか、見ないで批判するとかフィルムメーカーとしてどういう態度だよ、と思う。扱われる素材を断片的に知っただけでどう料理するか確認せずその料理を「まずい」と言ってるのはいかがか。