「ウジョとソナ 独立運動家夫婦の子育て日記」を読む。
めちゃくちゃ良かった。日本に併合された韓国の独立を目指す夫婦が、第二次世界大戦中の中国を舞台に子育ての様子を日記にしたもの。
日本人としては韓国や中国に対して帝国主義ムーブをかまし現地の人や場所を痛めつけた歴史をきちんと学ぶことが出来るという要素は大きいが、特に時代や国籍に限定せず、「戦時下で子育てをすること」を通して人間とは、戦争とはを楽しみながら学べるすごく良い教科書だった。夫婦が協力して独立運動に尽力していたことはあくまで背景要素の一つで、それほど活動内容の描写だったり複雑な戦況について深掘りして解説するような内容ではない。日記を書いていた夫婦も広く読まれることを想定せず、二人の娘を中心として家族を思いやる温かい記録のような描写が多くて胸を打つ。
訳者も後書きで記しているが、夫ウジョの19世紀生まれとは思えないフェミストぶりが素晴らしいしカッコ良い。生後まもなく満足な食事や清潔な環境を用意してあげられない娘を、爆撃が降り注ぐ中守ったり、何年も緊張が続く戦時下で体調を崩し苦しそうな妻ソナを気遣い、祖国のために奮闘する姿は尊敬しかない。元々渡米して事業を成功させたという実績もある彼の背景を考えると、自分だったら途中で投げ出したり逃げ出したくなったりすると思うが、「怒り」の感情に振り回されずに丁寧に生きてるのがすごい。二人目の娘が生まれた時、独立運動の仲間たちが明らかに「男の子じゃなくてまた女の子か…」と残念がるような色濃い男尊女卑の描写もあるのだが、そういう空気に飲まれずにちゃんと娘を大切に育てるのも痺れる。
子育て日記なので、もちろん辛く苦しいだけの内容ではなく、すくすくと成長する娘が習ってもいない中国語を使って中国人と楽しく話してる様子だったり、おみやげで遊んだりする可愛い描写も楽しめる。赤ちゃんの頃の娘の意思表示方法を「xxしてる時はお腹が空いてる時」みたいに観察して分類してるのとかもすごく微笑ましい。それでいて、戦時下で子育てすることについても「父の選択を受け継がせ、運命だから受け入れろとしてしまっていいのか」と逡巡するような日記もある。
以下はすごく印象に残った日記の1フレーズ。
「将来この子から、異国を彷徨いながら暮らした理由を尋ねられたら、こう言ってわかってもらえるだろうか。
おまえの未来のためだったんだよ
独立を成し遂げるという私たちの悲願をこれで説明できるのだろうか」
他にも、
「店先に並んでいるさまざまな品物を見つけたジェシーは、あれが欲しいと強く要求した。
この先この子がこの世で欲しいものは、いったいどれだけあるのだろう?
まだ満3歳にもならないのに、もう自分の物にしたいという欲望が芽生えている。
自分の所有物にしたいという欲望。
モノであれヒトであれ独占せずに、ともに分かち合うことはできないのだろうか。」
子育ての何気ない様子からも時折こういう社会に対する洞察が入ってハッとする。
