midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「まんがトキワ荘物語」を読む。

椎名町にあったというトキワ荘で一時を過ごしたマンガ家たちによる思い出話を集めたアンソロジー。知らない作家もいるが、大体は一度は読んだことのあるビッグネームで、ホントにトキワ荘なくして日本のマンガ文化は成り立たなかったんじゃないかと思えるほど豪華なものだ。

それぞれ思い出話として楽しく読めるが、石ノ森章太郎のものは特に秀逸。全編セリフなしで、若い頃の作者本人がトキワ荘の直線の廊下を歩いていく中で様々な思い出を郷愁あふれる筆致で描き出し、出口を出たところで時が経ち廃墟となったトキワ荘が映し出され、作者も現在の姿になるというもの。単純に思い出を振り返るというだけでなく、幻想的でマンガとしてのクオリティがすごく高い。ヨーロッパの文芸映画を観てる感じ。他にはやはりというか手塚治虫のものも良かった。これはトキワ荘自体を主人公として、彼女(?)のナレーションで自分を通り過ぎた作家たちについて語るというもの。これも視点が独特で面白かった。

それにしても皆当時から第一線でマンガにがっぷり四つに組んで取り組んでいた様子がわかって、こういう環境で切磋琢磨できたというのは貴重な体験だろうなと素直に思った。映画を見に行ってはストーリーを分解して分析してたり、単語3つからお話を発展させる訓練を夜通し行ったりとか。お気楽に面白おかしく描かれてるけど、ストイックで素晴らしい。