midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「坊ちゃんの時代」を読む。

バンドデシネ辺りを読むと、改めて谷口ジロー氏の仕事って凄いんだなと思うことが最近多くて、まだ読んだことのなかった本作を読んでみた。面白かった。タイトル通り明治終盤、夏目漱石森鴎外石川啄木幸徳秋水などの人物を軸に当時の日本の作家、思想家、政治家など多彩な人の活動を史実と少しのフィクションを交えて描いた作品、といって良いだろうか。谷口ジロー氏の緻密で丁寧な絵と抑制の効いた演出でじっくりと当時の雰囲気や日本人の悩みや意識のあり方を味わうことができる。

歴史が好きな人間からすると、本書で描かれる「なんでもない時に○○と××が会っていた」みたいなシチュエーションが面白い。なんとなく同時代を生きた明治の人、というイメージがあっても同じタイミングでの年齢や活動状況が曖昧なので、「夏目漱石より森鴎外の方が先輩なのか」とか「二葉亭四迷って色んな後輩に慕われてたんだな」とか「山縣有朋って長老みたいな立場になって取り巻き以外からは煙たがられてたんだな」みたいな人間関係が可視化できるのが面白い。時代全体を描き出す作品なので大きな山場みたいな物語の起伏は無いが、著名人に関するトリビアや創作秘話も豊富なのでネタの宝庫としても面白い作品だった。