midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「ヒップホップ・ドリーム」を読む。

数年前からなとなく読んでみたいリストにあった本だが、たまたま図書館で見かけて読んでみた。特に前評判を知っていた訳ではないが、日本でラッパーとして輝かしい実績を持ち、精力的に活動し、Zeebraとは違う意味で「ヒップホップ・ドリーム」をどのように体現したのかと思って気になっていた。

漢というラッパーの熱烈なファンかというとそうでもないし、現状SNSだったりで鎖グループや彼の周辺の情報にアンテナを張っている状態ではない。多分、実際のライブや現場で彼のパフォーマンスを見たことはないし、彼の音源にたくさん金を落としている人間ではない。ただ、2000年代後半に大学の音楽サークルで過ごした自分からすると、漢やMSCの評判はすごかった。本書でもしきりに語られるリアルさというか嘘の無さ、猥雑な生活感が濃厚で、過激な表現を評価しがちな大学生らしく、彼らの音源やライフスタイル自体を消費して楽しんでいた感じがある。

読んでみての感想は、かなり想像通りという感じ。語られるエピソードも作品や当時のインタビュー記事的なものから断片的に知っていたものもあったし、その舞台裏についての話を聴ける感じで面白かった。語り口も過度に論理的でもないし、評論家的な視線も薄く、あくまでプレイヤーとしてヒップホップをサヴァイブしてきた人間の文体という感じで、それでいて敵や味方を含む色んな関係者の目に留まる中で「どのラインまで語っていいか」をすごく気にしながら語っている感じが伝わるので「ストリートの知性」を感じて面白かった。固有名詞や数値を出して主張したいところと、ある程度ぼかして語るところの濃淡が管理されている感じがさすがだなと。

個人的には幼少期の話とか90年代の東京の不良シーンの話は実話ナックルズ的で面白かった。年齢的には10歳弱離れているが、同じ年に自分が埼玉で平和な学生生活をしていた時に歌舞伎町周辺で不良として思春期を過ごした男の見てきた景色ってこんなに違うのかと驚く。

もちろん彼も1プレイヤーなので彼の主張が全て正しいとか鵜呑みにすることもないかとは思うのだが、波瀾万丈な人生だし普通に読み物として楽しめた。