midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「ルポ 百田尚樹現象」を読む。

著者と同様、知ってる範囲では周囲に百田尚樹読者がいないリベラルな環境に囲まれた自分にとって、百田尚樹という強い排他的な言葉をまき散らす人間に人気が集まり、経済的にも文化的にも現代の日本を映す事態はなかなか理解しがたいことだった。本書は彼の著書の読み込みやインタビュー、現代への影響、先達となる「新しい教科書をつくる会」などの仕事を分析して見せた非常に面白い一冊となっている。なんなら、彼に対してある種の好感を持ったし、本を読んでみたいと思ったし、学生時代に読みこんだ小林よしのりのマンガも読み返してみたいなと思った。

<百田尚樹という人の特徴>

ストーリーテリング、語り口の巧さ。

・プロ意識の高さ。原稿料が発生するのであれば、依頼主である編集者の意向を汲むことも必要だ。言葉を修正されることに対しても柔軟に対応する。

・自分の影響に無自覚で、政権を無批判に擁護しているつもりはない。twitterでは言いたいことを言うだけ。

イデオロギー以上に、権威に立ち向かう民衆というメンタリティーが強い。

・本音が向かう「権威」の一つは、「ええかっこしい」なマスメディアである。

・「自分の恣意によってシーンを創作し、あるいは変形してはならない、という事実に対する倫理感」が小説家とジャーナリストをわける一線である。その感覚が薄い。

・「右とか左とか関係なく、おもろいことが大事なんですよ。」虎ノ門ニュースの山田社長。

<つくる会>

つくる会の中心メンバー3名はそれぞれ自分の本業分野ではマイノリティで、権威に立ち向かっていくという性格を持つ運動体となった。

つくる会メンバーの出自の違いと意見の相違がおおき過ぎることもあり、最初から運動体としての統一感がなく解体スレスレで運営していた。

・藤岡にとってのターニングポイントとなった湾岸戦争。侵略という厳然たる事実の前に、平和の理想を語ったところで「現実の解決には無力」であることを学ぶ。日本国内での「非軍事分野での貢献」を中心とした議論も国際社会で通用しないことを知る。

小林よしのりにとってのキーワードとなる「情」。薬害エイズの賠償問題や従軍慰安婦の問題についても左右問わず、弱い者の代弁者にならなければという思いがあった。

・日本は負けるということが分かりながら、講和の条件を少しでもよく引き出せるのであれば自分の命を投げ捨てること。公のために個を投げ捨てるっていう個人主義の感覚。亡くなった人たちの声を組み込む「縦の民主主義」の必要性。

・西尾は民族にこだわる学問人として、その生涯を生きてきた。

<百田尚樹現象>

・批判と空転の繰り返しの先にある、百田尚樹現象の中心は「空虚」だ。本人をいくら批判したところで、そこには先がない。むしろ、彼を取り巻く現象にこそ注目しなければいけない。

・問題は最初から、ファクトやエビデンスではないのだ。

・ファクトに基づいてのみ判断すれば、批判した多くのリベラル系歴史学者・メディアの圧勝に終わるにもかかわらず、なぜ根拠に基づかないものが影響力を持つのか。(略)飾らない本音、感動を素直に表現できる言葉は、エビデンスやファクトよりも多くの人々の感情を突き動かし、共感を呼ぶ。