midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

赤瀬川原平漫画大全」を読む。

前衛的なアーティストとして一枚絵を作成していた赤瀬川原平が「ガロ」の白土三平つげ義春のマンガに影響を受けて、60年代後半から70年代後半にかけて描いてみたという短編集。その辺の創作秘話も収録されており、安保闘争とか学生運動とかその辺の香りも存分に楽しめる内容となっている。

絵柄は初期はハード路線のつげ義春というかリアリスティックでかつ幻想的な感じだけど、徐々に水木しげる的な柔らかいタッチに変化していく感じが面白い。この辺は自身でも本作で述べているけど、もともとの仕事であった一枚の止め絵を仕上げる画家としての絵の描き方から、物語を駆動させる絵としての楽しみを見出していった過程なのかなとも思える。絵柄とリンクして作品もポップに変化していき、読みやすく楽しくなる。個人的には「空飛ぶファシズム」という話が面白かった。学生運動に勤しむ若者が宇宙船に乗りこむというぶっ飛んだ話なのに、その若者たちはその現実を理解できず、相変わらず狭い日本国内で誰も聴いていない民衆に向かって「階級的視点のブルジョア趣味が…」みたいにアジってる様をシニカルに描いた作品で、痛烈に皮肉が利いていて笑った。当時の運動家をこういう風に観る向きもあったんだなぁという。あと、つげ義春の「ねじ式」を徹底的にパロった「おざ式」とか、FAXがなかった当時にして画期的なアイデアで作成された、「電話原稿」という電話でマンガ原稿をやり取りするSF話も面白かった。