midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「マチネの終わりに」を読む。

面白かった。話や構成は特に気を衒ったことはないし、非常にオーソドックスな恋愛小説なんだけど、さすが平野敬一郎というべき音楽や文学をはじめとした教養一般知識を決して嫌味にならないようにまぶし、更に2010年前後の世界の情勢をそのまま物語世界に投影しているのもあってハイレベルな作品に仕上がっている。世界を股にかけて活躍する主人公たちの感情や行動によって、サブプライムローンに端を発する証券化という金融手法に対する懐疑だったり、イラク戦争後のアメリカ軍の行動だったりといった戦争が確かなリアリティを持って描写される(だから、フィクションなのに参考文献が多い)。そして、酸いも甘いも経験した40代の男女の恋物語ということもあって、出産が出来る出来ないみたいな肉体的なリミットやお互いの仕事の好不調などが細やかな筆致で描かれており、共感ポイントも高い。そして、そういうある程度の時間を生きてきた人間だからかそ、一貫して「過去は変えられる」という主人公二人の繰り返される言葉が恋愛だけじゃなく人生という大きなタームで意味を持ってきて、お互いに身を焦がす程思い合い、人生の支えであったのにふとした誤解からすれ違い別々の人生を選んだ二人がクライマックスで邂逅し、盛り上がりが頂点を迎えるのも非常に上手かった。ちょっと最後のマチネでヒロイン同様泣きそうになった。

あと読んでて思ったんだけど、この作品「冷静と情熱の間」と近い雰囲気があるかも。非常にフォトジェニックな海外の美しい風景を舞台に美しい大人の男女が織りなす切ないラブストーリーというところ。そう、これ映画化しやすいと思うんだよなー。男性役は途中スランプから少し太るのと話し好きで快活な印象を与え、語学が堪能なところから鈴木良平なんかいいんじゃなかろうか。女性役は東欧とアジアのダブルで物静かで知的な女性なので、宮沢りえとかだろうか?ただ、彫りが深いという描写があるので滝川クリステルとかの方がしっくりくるかも。いやぁ、こんな無駄な配役とか考えるのも楽しい素晴らしい作品だった。