midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった裏社会の案内人」を読む。

金融系の本読んでたら総会屋とか仕事師とかフィクサーとかが気になって読んでみた。総会屋の相手をする大企業の総務部やらマスコミやら生きた情報を必要とする人間が購読していた「現代産業情報」という情報誌を発行して大企業の顧問となったり、検察や政治家の表の人間だけでなく右翼やヤクザともパイプを持って文字通り「黒幕」として仕事をしていた石原俊介という男の姿を描いたルポ。

著者の筆力もさることながら、やはりこういう知的なアウトローはカッコいい。反権力を貫き(その結果、左翼とも右翼とも通じた)、自分が顧問となった企業でも、リクルート事件のようなことになれば自分の情報誌の読者たちに必要と信じて書くという姿勢。スポンサーに腰が折れてばかりのマスコミや上司の意向に従いまくる自分のようなヘタレ人間にとってはとても憧れる。仕事術としても本書は有効で「石原さんは定点観測にこだわりました。同じ立ち位置、同じ目線で物事を凝視し続けないと、その先に起こることが見えてこないと力説していました」とかは役に立つ考えだ。

実名で出てくる人物は曲者揃いで、もともと知っていた朝堂院大覚みたいな人を始め、田中森一許永中上森子鉄石井進、小池隆一、横井英樹武井保雄とか色々追ってみたいと思わせる人間を知ることが出来た。他にも、平和相互銀行事件、イトマンリクルートみたいなバブル期の経済事件への関わりとか、山一證券の倒産、ペイオフが発動された日本振興銀行の事件など、石原氏の仕事を通じて80年代からゼロ年代に至るまでの日本社会の権力構造が解きほぐされる。バブル期の証券会社が一山当てたヤクザとかの大口の客相手には損失補てんして株を手放さないように繋ぎとめておいた事件(当時の大蔵省も黙認してた)とか今となっては信じられないし初めて知った。

終盤、企業がコンプライアンス重視になり、総会屋もほぼ絶滅し、政治も比較的クリーンになっていく中で、石原氏のような「グレー」な情報を扱うことの価値が徐々に薄れていき、企業の顧問契約を切られたり、力を失っていく描写を読んでいると複雑な気分になった。社会としてはもちろんそうあるべきではあるんだけど。