midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

石ノ森章太郎のマンガ家入門」を読む。

数年前に「トキワ荘物語」を読んだが、当時の漫画家集団の中で、やや若輩者でもある石ノ森氏の振り返りがすごく良くて印象深かったことを覚えている。

timit.hatenablog.com

 

「トキワ荘物語」1 | 石森プロ公式ホームページ

本書はその石ノ森氏が創作論について、80年代後半の後継のクリエイターに対して語り尽くした名著。自作の解説だったり読者からの創作に関するアンケートに解説する形式となっている。

漫画という表現の中でジャンルの細分化が進んでいく中である意味、手塚治虫ばりに「漫画表現の中で何ができるか」ということを模索し、かつ商業的に雑誌連載の中で実験してきた人なんだなということを改め知った。自分の先輩作家たちの偉業も合わせて紹介しているのもえらい。

著者自身の作品を使って、どういう道具を使っているか、キャラクターの作り方やストーリー作りにはじまり、4コマ漫画の構成を磨くことであったり、ギャグやストーリー漫画の中での構成・演出・作画まで色んなレベルで「物語に引き込むための」技術を解説している。

他には、「音が出る漫画」とかより複合的な表現についても予言的に書いてあるのが面白かった。今だとネットで表現可能な「縦読み漫画」が漫画の形式としては新しくてそこそこ確立してきたような気がするけど、今後の漫画がどのように変わっていくかについても考えていたんだなと感慨深い。

timit.hatenablog.com

 

「ホワイトハッカー入門」を読む。

ペネトレーションテストの教科書」に引き続き、セキュリティ系の技術本を読んでみる第2弾。

timit.hatenablog.com

それほど濃ゆい内容ではないけど、面白かった。「ペネトレーションテストの教科書」と内容が重複している部分もあるが、本書はもう少しITコンサルや上流SIerやセキュリティコンサルの入門書といった感じ。実践的なサイトの紹介やkali linuxを使ったコマンdの紹介もあるが、ガッツリ使う人よりは概要を知りたい人向け。

概要としては、攻撃者の視点と対抗者の視点が章ごとに移り変わるため、どちらの心境で読むのかが少し分かりづらい構成になっている。全体的には、「攻撃者が特定のターゲットを攻める時にどのような手法を使って攻撃するか」というのを、情報収集〜ハッキング〜継続的なハッキングの環境構築〜痕跡の消去みたいな流れで読み進めていくことになる。その過程で主客が入れ替わりつつセキュリティの知識を身に付けられるという感じ。

セキュリティを考慮したサービスを構築するエンジニアからすると、本書の前半の方が読み応えがあると思われる。実際に自分が担当してるサービスでIDP/IDSやWAFのレイヤでTCPのsynスキャンやsynフラッドは起きていて都度調査しているし、フットプリンティングの手法の紹介は勉強になった。

あとはコーディングの段階で、SQLインジェクションなどの主要な攻撃に対してサニタイズがどのくらい機能するかという問いはリアルで面白かった。対策に対してクイズ形式でどのコーディングがどの程度効果があるかを読者に問うのだが、見事に外れたりすると緊張感が高まって読んでいて面白い。この辺りは知らないとなかなか知見がつきづらい分野だと思うので、フロントエンドだけでなくwebエンジニアが知っていて損のない内容になっていると思う。

AWSエンジニア入門講座」を読む。

著者のyou tube動画は何回か見たことがあったのと、本書の評判も上々だったので読んでみるかと読んでみた。今の自分にはほぼ学び代がなかった。本当に、AWS未経験の人向き。確かにロードマップ的にというか俯瞰的にAWSのサービスを「知る」ことはできると思うけど、実際に「使う」までにはかなり高いハードルがあるかなという印象。

あと、いかにも日本的というか嫌悪感を感じてしまったのが、AWSの各サービスをアニメっぽい絵柄の女性キャラで表現しているところ。章ごとの最初のページしか登場しないので擬人化させる意味が薄いし、老若男女のキャラが登場する訳ではなく、10〜20代くらいの女性しか出てこない。こういうホモソーシャルな感じを全く自覚することなく使ってる感じが気持ち悪いと思ってしまった。amazonの中の人とかこの絵を見てどう思うんだろう…。

なんか最近読む手を動かさない系の技術書、ほとんど学び代が無くなってきてる。それだけ自分が成長できてるということではあるけど、もう少し学びたいことを学べる本を見極める精度も上げていきたい。

「girl code」を読む。

面白かった。NYを舞台に日常に色々な不満を持っていた普通の女子高生の人生がプログラミングを通して変わったという実話小説。

青春小説らしい成長記録であり、少しでもコードを書いたことがある人であれば通ってきた道を思い出されるような思考過程が丁寧に紹介されていたり、いまだに社会の空気として女性であることを素直に表明できないことに対する主張でもある。要所に実際に彼女たちが書いたコードが紹介されており、参考にもなる。

主人公二人の日記みたいな文体で進むので、全く肩肘はらず爽快に読めるのがまず良い。日常で飲み食いしているジャンクなものだったり、やや過剰に思えるような表現だったり、SNSでバズった動画を比喩に使ってみたり。それでいて、期限の中で自分達が作りたいものをどうやって表現できるだろうと四苦八苦する。

個人的にすごく面白かったのが、最終的に作るゲームの「主人公がジャンプする」というコードがうまくいかないというもの。当初はこんなん楽勝でしょ、とコードを書いたものの全く動かず、相方がスラスラと別のコードを書いているというプレッシャーの中で、丸一日悩んでコードを書くこと自体が嫌いになったくらいで家に帰ろうとする自転車に乗るときにふと「あれ?こう書けばいいんじゃね?」と気づくという。こういう経験を何度も積み重ねてきた思い出があるので、リアルすぎて笑ってしまった。

実際に作ったゲームはApple storeで現在も販売されており、ゲームとしては非常にシンプルながら、きちんと主張を楽しみつつ楽しめるので試してみるのは良いと思う。

tamponrun.com

「9割の社会問題はビジネスで解決できる」を読む。

コテンラジオのゲストで出ていてすごく面白い話を聞いて興味を持ったボーダレス・ジャパンの田口氏の著書。自分と自分の会社の自己紹介という感じで、非常に面白く読めた。何よりパッションが感じられるのが良い。平易にまとめられていてその気になれば中学生でも読めるし、社会の中で理不尽さや不正を感じてなんとか出来ないか?と考える人みんなに影響をもらえると思う。事業を練る上でのフレームワークもフリーで提供していて、本当に社会起業家をどんどん増やしたい、仲間を増やしたいという意思が感じられた。

NPONGOでもなく、政治家でもなく、ビジネスとしてキャッシュフローを作る仕組みは本当にたくさんの事業で試行錯誤する中で磨き上げてきたという感じで学びがあった。事業内容にこだわるために出資は受けず借入にこだわってきたというのも最近読んだ事業ポートフォリオマネジメントと真逆なのも面白かった。そして、コテンラジオに出演した時も話題になっていた「出資額を超える配当はしない」というのも株式会社として前代未聞だし、社会問題を解決すること自体が目的であると考えるとなるほどなぁと納得できた。

timit.hatenablog.com

革命を起こすでもなく、既存の資本主義社会の中で真剣に問題に向き合って解決していくとはこういうことなのかと学びになる。ボーダレスのサービスとして去年からハチドリ電力を使っているけれど、使っていて良かったと思ったし今後もエシカルな消費者でありたいなと思う。

hachidori-denryoku.jp

 

「理想の父にはなれないけれど」を読む。

じゃんぽ〜る西氏の新作。次男の育児エッセイとなっており、面白かった。本作では日本とフランスの異文化要素というのは薄く、全力で生きる子供を冷静に見守りつつ育てていく様を描いた作品となっている。

後書きで著者自身が触れているように、本作は全編がカラーとなっており、画力の高さも相まってすごくリアルかつ可愛いバンドデシネっぽい要素と日本のmanga的なデフォルメが混じり合ったエッセイになっている。ただの可愛い天使、というような対象ではなく、動物的な荒々しさを持つ生まれたての赤ちゃんが3歳を迎えるまでの言葉や社会性を獲得して貴重な瞬間を収めており、言い間違いとか変な行動の記録など結構学術的にも貴重な作品な気がする。

となると描かれている子供たちが父の作品をどのように捉えるかは気になってくる。長男はそろそろ思春期に差し掛かるころだろうし、普通に捉えれば自分のかなり恥ずかしい記録が公共の場で商品として売り出されているわけで、グレかねない気もする。もちろん家族や周囲の理解はあるのだろうが、最終的に「本人の許可」は成長しないと取れないので難しい気はする。本作が面白いだけに、子供たちの成長に悪影響がなければ良いなぁと思ったりもする。

「アドルムコ会全史」を読む。

アドルムコ会全史

アドルムコ会全史

Amazon

クソ笑った。小説読んでこれほど爆笑したのは初めてかも。物語自体というよりも、とにかく不謹慎、エロ、グロ、ナンセンス、それに人間の嫌な面を丁寧に描き出すために物語という体裁にしているというくらいで、しょうもないエピソードの一つ一つがコントみたいに笑える。読書感覚としては漫画太郎作品に近い。

著者は公務員だったらしく、本書にも役所を舞台にした異様にリアルで生臭い人間関係を描いた話が出てくるのだが、同僚たちはこういう話を読んだらどう思うんだろう思ってしまった。フィクションに対して相当な耐性が無いと引きまくる気がするが。